乾杯屋

3回前くらいの直木賞では候補に挙がったこともある三田完の、6編からなる短編集。現代モノです。

乾杯屋

乾杯屋

私が普段読む現代小説って、主人公が若い人のモノが多くて、まあいったとしても、三十代・四十代くらいで、こういう五十代の語り手のモノや、もっと老齢の人が準主役みたいに出てくる小説って普段ほとんど読んでない。登場人物にそれぐらいの年の人が出てくることはよくあるけれど、あくまでそれは味付けみたいな部分で、それが軸にはなってない。だから、私にとっては本書は新鮮だった。
青春小説って私は好きだし、よく読むけれど「今だから面白いんだよなあ」って思ってしまうことがしょっちゅうある。30年後に、その時代の新作現代青春小説を楽しんで読める自信はない。そんときに何を読めば良いんだろうって思って、出した結論の一つが歴史小説で、だから今、意図的に歴史小説はあんまり読んでない。北方水滸伝とか超読みたいけれども「これは多分30年後に読んでも面白いから」とか思って取っておきたくなる。というか、なっていた。
でも、本書みたいな小説が30年後も発行されているだろうことを考えたら、別に歴史小説を取っておかなくても良いかな、という気分になってきた。
というわけで、読んでよかった本でした。収録作は、どれも粒ぞろいっす。100%の善意って、あんまりないよね、って考えたり。
ただ一つ。
17歳の女の子を一人称語り手に採用した「匂鳥」はちょっと……。話の筋は良いんだけど、文章(文体)やディテールに違和感。無理がある感じがしてしまった。