キッチン

マンションの敷地内に「ライブラリー」というのがあって、小・中学校の図書室くらいの広さのスペースに、たくさんの本(小説中心)と、いくつかの机イスがある。
午前中はとてもしずかなので、わたしは最近、よく「読まなきゃいけない本」を持ち込んで利用している。



家と違って、集中力を切らすものが周りに少なくて、なかなかいいかんじだ。
けれど、暖房が効いていないから(それでも屋外に比べれば暖かいのだけれど)、どうしてもさむくて「短期決戦」という感じになってしまうのは、まあ、許容範囲だ。



今日も持ち込んだ本を読んでいたのだけれど、どん、と音がして(たぶん誰かが壁にぶつかった)左に目を転じたら、本棚の中の一冊『キッチン』という書名がわたしの目を惹いた。吉本ばななのやつだ。



『キッチン』を読んだのは、たぶん中学生のころ。
『TSUGUMI』の一部が教科書に載っていて、どうしても続きが読みたくなって本屋さんに行ったのだけれど、わたしのまちの小さい本屋さんには『TSUGUMI』が置いてなくて、仕方なく同じ著者の『キッチン』を買った。



家に帰って読んだら、すごくおもしろかった。
読んで数日間は、作品の余韻に浸っていたように思う。



いまだったら、本を読んで面白ければ「じゃあ、この作家の本、ぜんぶ読もう!」と、なるのだけれど、当時のわたしは、そこまで読書好きでもなかったので、この本がきっかけで本をたくさん読むようになりました! とは、ならなかった(結局このとき『TSUGUMI』は読まなかった。大学入ってから読んだけど)。
それゆえ『キッチン』は、わたしの中で単発の作品であり、この本を思い出すときには、この本のことだけが、浮かぶ。



ライブラリーで『キッチン』の背表紙を見たら、読んでいる最中、および読んだ後に何を考えていたかを思い出して、とても懐かしい気持ちになって、思わず手に取った。そして、読み始めた。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

最初の1ページを読んだら、引き込まれた。
こんなにおもしろかったっけ?
すごい。これは、すごい。おもしろい。
1時間くらいかけて、じっくり、ゆっくり、読みきった。



昔以上に、作品にのめり込んだ。
それは、
この小説を書いた頃の吉本ばななと、小説に出てくるみかげと、今のわたしが、ほぼ同じくらいの年齢だからだと思う。
登場人物たちの会話や思考から受ける印象が、中学の頃に読んだときと、随分ちがう。絶対ちがう。
あの頃も「おもしろかった」と思った。あの頃から今日まで、たぶん一度も読み返していないけれど、作品のストーリーを、ほぼ完璧に覚えていることからも、当時、自分のこころにどれだけ印象に残ったかが、うかがえる。
けれど、ちがう。そんなんじゃない。
うわ、何だこの小説。
こんなことを言っていたんだっけ。すごい。
って、とにかくびっくりした。読んで良かった。



単行本に収録されている「ムーンライト・シャドウ」は、大学の卒業制作(?)で書いたもののようだ。
わたしも卒業制作がんばろう。



ところで、Amazonにリンク貼ろうとして知ったんだけど、
色んなトコから、文庫が出ているんだね。ウチにあるのは「中公文庫」版。